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追悼・色鉛筆で生きることを教えてくれた画家、吉村芳生さん

そのニュースを見て、思わず「えっ」と叫んでしまいました。

 吉村芳生さん(よしむら・よしお=画家、版画家)が6日、間質性肺炎で死去、63歳。
 山口県出身で、1970年代半ばから克明な鉛筆画を発表。新聞を本物そっくりに書き写し、そこに自画像を重ねて描く異色の画家として知られた。
(朝日新聞 2013年12月6日15時30分)

追悼・色鉛筆で生きることを教えてくれた画家、吉村芳生さん_c0309568_11195266.jpg
写真はパリで描かれた作品集より

吉村さんの作品展には何度も足を運んでいたので、とてもショックでした。
中でも、壁一面に貼られた、新聞を背景に自画像を描いた連作を前にしたときの衝撃は忘れられません。新聞紙の上に自画像が描かれているかと思いきや、文字や写真、広告に至るまで新聞そのものが、吉村さんの色鉛筆による手描きで写し取られたものなのです。
新聞には日々さまざまなトップニュースが報じられ、そこに浮かび上がるように吉村さんの毎日の表情が刻まれます。あるときは笑顔、またあるときは厳しい顔、鋭い目つきや背を向けそうなときもあり、生きた心の動きが現れているようです。

生きていく中で私たちは何をし、何を残せるかー。刊行される新聞も、世界中で起こる出来事のドキュメントであり、人々が生きた記録です。一方で、そんな世界の中で、あるいは世界に対して、確かに生きている個人としての画家自身の姿を描き続ける。今そのときを焼き付けるような情熱と、継続していく意志の強さが紡ぐ創作が、「生」そのものであるように感じました。

吉村さんは、「異色」などといわれているように、その超絶的な技術が注目されますが、単なる職人を超えているのは、表面的な技巧にとどまらず、その向こうに何かを見せてくれるからだと思います。本当にものを見るとはどういうことか、絵を描くこと、美術とはどういうことなのかー。それは、吉村さんの筆致が、吉村さん自身がそれらに真摯に、必死に向き合ってこられたことを証明しているからでしょう。

吉村さんは若い頃から芸術系の学校を卒業後、一度仕事をしながらも、美術を志して学校に新たに入られたり、近年もヨーロッパで勢力的に発表をされたりと、美術に正面から向き合われていました。
現代美術家というのは端的には生きている方のことですが、現代美術家の方を喪うということは、鑑賞者としてもとても実感の持てないことでした。同時代を生きながら、次はどんな作品を見られるんだろうと期待していたのが、突然、シリーズも終了してしまい、歴史になってしまうという現実はとても悲しいものです。

でも、吉村さんの作品を見返してみると、そこには毎日毎日の、怠りない吉村さんの生きた記録がありました。吉村さんはかつてあるインタビューで、新聞も自画像も日に日に消えてゆく「遺影のようなもの」だと語られていましたが、こんな作品を遺せて、立派に生ききられている。消えていくこと、死に向き合うことで、生を完結させているともいえます。
じゃあ自分はどうなんだ、と逆に問われた気がしました。人はそれぞれに生き、いろんな形で何かを残そうとしています。ある人は絵を描き、ある人は子供を育てて。日々の積み重ねが、生きることそのものになる。吉村さんの一枚一枚の新聞と自画像の絵が、それを教えてくれた気がします。そしてこれからも、作品に写し取られた吉村さんの「生」は、見る人たちの中に感動を伝え続け、生きていくでしょう。

どうかご冥福をお祈りしています。



by parttimeart | 2013-12-08 03:21 | コラム

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