P.T.A―Part Time Art ふつうの人が発信するアートカルチャーマガジン―

シュプールを追いかけて青森へ

「汝を愛し、汝を憎む」

とは古里津軽に向けて書かれた太宰治の一節だが、
東北の人々が雪に持つ複雑な感情はそれに近いものがあるような気がする。
一面の雪の美しさも、雪に閉ざされる絶望感、毎日の雪かきの苦労も知らない南国九州人の私には、そのような存在はなく、
北の人々に畏敬の念と同時にある種の憧れとうらやましさを持たずにはいられない。

先日青森市は八甲田山にほど近い「国際芸術センター青森(acac)」を訪れた。
アーティストの中崎透さんが監修し、一般の参加者たちと、スキーをテーマに集めた展覧会
「中崎透×青森市所蔵作品展 シュプールを追いかけて」を見るためである。

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文字通り雪に埋もれ、雪の中のかまくらのようになったacac。

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独特の曲線を描く広い空間を貫くように並べられた市、個人や企業などが所有する100組以上のスキー板は壮観。

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展覧会風景写真は展覧会タンブラー
http://tenrankaitsukuranai.tumblr.comより

スキーのヨーロッパから日本への伝来は明治後期といわれるが、
当時日本人は何に使うのかよく分からなかったらしいというエピソードはかわいいし、
その後レルヒ少佐(タイムリーにソチのスキージャンプメダリストになられた清水礼留飛さんの由来としても有名になりました)が日本でスキーを広めるきっかけに
なったのが、雪の八甲田山で日本陸軍が遭難したことだというのも興味深い。
旧林野庁は青森の主要産業である森林の管理のためにスキーを使い、そこから有名スキーヤーが生まれたのも、中崎さんが「見回りよりスキーが楽しかったのでは」といわれるように、スキーの楽しさに目覚める無邪気さが想像できてほほ笑ましい。
そのほか青森市出身の冒険家でスキーヤーの三浦雄一郎さん、毎年のように岩木山でスキーを楽しみ「宮様コース」まで作られた「ヒゲの殿下」・寛仁親王など、著名人をはじめ、スキーを愛する人々を通して青森とスキーのかかわりがいかに強いかがわかる。
その後バブル期のレジャーブームでスキーは”トレンディ”な趣味として脚光を浴びるのだが、やがて不況などとともにスキー場の閉鎖も相次ぐなど
スキーも時代の趨勢とともに翻弄されていることも感慨深い。

・・・と述べていると実に文化学術的な青森におけるスキー史という歴史的な展覧会かと思われるだろうが、
もちろん丹念な調査に裏付けられた資料が十分それを担保しつつも、
スキー板やスキーに関するねぶたなどを並べる美的な感覚を見るとまるでインスタレーション作品のようであるし、
それらがあわさって民芸、考現学的な「用の美」に通じるものも感じられる。

それはacacの服部浩之さんが指摘されるように「学芸員ではないアーティストの中崎さんの視点ならではの、ある物を生かしたブリコラージュ」的作品にもみえる。
中崎さんと言えば、ユニットとして活動する「Nadegata Instant Party」でも水戸市の水戸芸術館で行われた「現代美術も楽勝よ。」展(2009年)で、
(端的に言うと)「市の所蔵美術品を使って展示を作る現場で、事件が起きたというストーリーで映画を作って展示する」といういくつも入れ子構造になったフィクションを用いた手法を展開しているが、
今回は歴史や個々のストーリー、展覧会を作り上げる過程そのものの紹介と多岐にわたることもあり、架空のストーリーは使われていない。
しかし奇をてらわない代わりに感じられるのは、スキーとそれを愛する人々への温かい目線である。
冬の雪山など、観光ならまだしも、そこに住む人たちにとっては苦痛きわまりない環境だが、
なんだかわからないけど足に板を着けるとすいすい滑っておもしろい、という発見があって次第にスポーツやレジャーに進化していって
楽しくない雪山が、ひいては娯楽の乏しい冬が楽しくなる。
その昇華の営みはとてもクリエイティブで、まさにアートなのではないだろうか。

同様に、お金を使って新しい素材を持ってきて作品を作るのも十分クリエイティブであるが、今その場にある物と向き合い、既存のものから過去を読み解き再構成し、遊んでしまう姿勢は軽やかで、
資源がなかったり将来が見えなかったりする現代の閉塞状態において大きなヒントになる気がした。

展示では、1年をかけて展覧会をまとめてきた中崎さんの言葉が紹介されていて、学生時代から愛好しているというスキーへの個人的な愛がしずかに告白されている。
世の中には「展示」といわれるものがごまんとあふれているけど、胸を打つかはプロフェッショナルであるとか、情報量とかビジュアルとかそういうことではなくて、愛なのだ。だから愛しい過ぎていく瞬間を形にとどめたい、情熱を持って紹介したい、という強い思いに駆られて本来展示はなされるはず。そういう「展覧会とはなにか」ということも伝えてくれる、本州北端にありながら最も熱い展示だった。
16日まで。

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acacで山口情報芸術センターの会田大也さんを招いて開かれ盛り上がったトークの模様
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by parttimeart | 2014-03-15 14:25 | レポート

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