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P.T.A―Part Time Art ふつうの人が発信するアートカルチャーマガジン―

構想1年?! 幻の連載・完結!アートプロジェクトを考える

もはや誰も覚えていないかもしれませんが、2014年秋。私はひとつの記事をアップしました。

世はアートプロジェクト戦国時代へ?~国東半島で考えたアートプロジェクトに必要なものとは?(上)~


それから(下)を執筆中に、すでにこの記事をアップしていたがためになぜか多方面より期待の反響をいただき、畏れ多くて筆を取れずに(ライター失格)なんと1年の月日が流れていたのです。本当にあった怖い話です。この間アートプロジェクト関係の方には顔向けできないほどでした(じゃあ書けよ)。
いや、構想1年! 構想1年! ということで勘弁してください!!

さて、(上)でどんなことを言ったかというと別に大したことは言ってないので再読する必要のないように主旨を抜粋しますと、

地域アートに必要な両輪は、
1、アートとしての質・レベルの担保と、
2、地域への溶け込み、被受容であると考えています。
(略)
アートが地域に出て行く以上、地域とアートが相互に分かり合い、歩み寄ることで補い合い、相乗効果を生み出して協働的にアートプロジェクトを運営すること。

それでこそ地域とアートが一体となった、(双方にとって)”付加価値”としての「アートプロジェクト」だと思います。
(略)
今後も経済の急好転は見込めないとすると、人寄せ的、観光目的などで行っているアートプロジェクトは持続性がなく、コンセプトや方向性の差別化も難しいので、アートプロジェクトの経年化とともに実際の集客などの統計データに明らかになるにつれ、淘汰されて消えるものも増えるのではないかと思っているからです。

集客をしたいのであれば、ゆるキャライベントやグルメイベントなどをやっていればよく、(それらは疑いなく幸せな催しですから)
アートを取り込むなら「なぜアートなのか」という、ほかの即物的なもので代替できない精神的な部分の必要性について説得ができないと存続は難しいでしょう。


ということを言っておりました。
そしてこの「アートプロジェクト戦国時代」において煌めくアートプロジェクトとして、2014年秋に大分県の国東半島で開かれた国東半島芸術祭を例に挙げたところでした(おさらい終了)。

まず国東のなにが素晴らしかったのか、というと
前回挙げた二つの要素
1、アートとしての質・レベルの担保と、
2、地域への溶け込み、被受容

が両輪として非常にうまく回っているなと思ったからでした。
1番目については、主催者であるBEPPU PROJECTのコーディネートにより、国内外のベテラン陣の安定感と、若手や話題性ある面々のフレッシュさがともに担保されていました。
そして、彼らアーティストとキュレーターによって、その嗅覚で場所を掘り起こし、作品を設置する過程で違う世界の見せ方を示しました。
もともと国東半島は修験道や自然などで有名なところではありますが、高齢化も進み、観光でとても潤っているわけではありません。
しかし「陸の孤島」といわれるその物理的隔離性が独自の信仰や文化を生み、現在まで伝承してきた類いまれなる地域でもあります。

そんな場所の力はもちろんありますが、その場にまずアート目的で呼び込むこと、そしてその場に包まれるそこにしかないアート作品を、また、そのアート作品によって変容するそのときしかないその場を、味わうことができるのです。
それは場とアート作品、どちらかの力だけでは成し得ず、両方が響き合ってこそ生まれるものです。

そして2について、作品と同じくらい非常に心に残ったのは、各地でボランティアでお茶やお菓子などを来場者に配ってくれる近隣住民の姿でした。これは住民が進んで手伝ってくれているもので、この地に巡礼に来る人たちをもてなすお遍路文化が由来しているとのこと。アーティストの制作段階から様子を見に通っていたおばあさんや、勝手にアーティストの作品にちなんだ木のアクセサリーを作っている人もいました。
計算されたものや予定されたサービスではなく、自分たちも、芸術祭に関わろうとする自発的な行動だからこそ、温かな気持ちになりました。
ただ作品を見て帰るだけでは、ロケーションが違うだけでギャラリーで見るのと結局変わりません。地元の人と交流することで、生の話を聞け、地域をもっと知るきっかけになります。地元にとっても、わけわからない観光客が無言で押し寄せて帰っていくより、話す方が安心感があるだろうし、活気も生まれるのではないかと思います。

もちろん、みんながみんな芸術祭に賛成なわけではないでしょう。少なくとも知り合える方々は、芸術祭に参加している方に限られるからです。
そういえば、ニュースで話題になったように、アントニー・ゴームリー氏の人体像は、信仰の対象である山中に設置されたため、賛否が分かれて大問題となったことが思い起こされます。
(大分合同新聞より。これ以降の話が見つからないのですが、結局どうなっているのでしょうか…。)

しかし、そこまでして芸術と地域がその意義を戦わせること、アートにとってその意味や必要性をそこまで問われるということがほかのアートプロジェクトにあるでしょうか? どちらもとても大事だからこそ退かないのであり、非常に貴重で大事なことだと思うのです。

この二つの視点から、わたしは鑑賞者としてアートプロジェクトを見ています。

そう、国東半島芸術祭といえば大変なんです。
思い返してみれば、各地のプロジェクトはよく「次のポイントは〇〇メートル先」とか看板がありますが、ここでは「〇〇キロ先(二桁)」など文字通り桁違いで、我が目を疑ったものです。
そして登山しなくてはいけない、1日で全部はいけない、バスもない、など環境的にはバリアだらけだったわけなのですが、
それは、日常の隙間で気軽に見るのではなく、登山のような場だったのでしょう。そこにたどり着くために準備をして、きちんと向き合って、入らせてもらうという、場所への敬意が必要だったからだと思います。場所に自分の体をなじませて、感性を研ぎ澄まして作品に触れる、まさに体験的なものを与えようとしていたのだろうと。
まさにそれこそアートなる体験そのものだと思うのですが、翻って、わたしたちは日頃アートをそういう風に見られているでしょうか?
アートプロジェクトでやっているスタンプラリーを集めるように、「はい、見た!」って満足したつもりになってはいないでしょうか?
視界に入れることは誰でもできます。でも、ちゃんとなにかの痕跡をわが身に残せているでしょうか?

国東半島をみたとき、私は「アートはまた観客を選ぶのだろう」と感じました。

これまでの広く浅く、みんなだれでもわかるように、という川が下流に向かうようなアートではなく、上流の厳しいところまで行った人のみ出会える泉がある。そういう風にアートは帰っていくのではないか、と。

今、アートは、間違った民主化でできたこの社会を批判しています。
それと同時に、アートそのものの民主化も見直されていくのではないでしょうか。

アートは資本主義社会でお金さえあれば手に入れられる"安売り"をした挙句、また貴族のみが持つ教養のように、今度は違う形で求める人のみが手にするようなものになっていくのではないかという気がするのです。
それは見る方からすると上から目線のようなのですが、遊園地に行くのとは違う、見る側も試される、そういったアートとの緊張関係を持つ必要があるのではないかと思うのです。

きょう2015年9月27日、BEPPU PROJECTは、2009年から別府市で続けていた「混浴温泉世界」の幕を閉じるそうです。
そして今回は、展覧会ではなくツアー形式で少人数、すべて要予約という趣向。チケットは早々に完売してしまい、そのやり方には賛否両論がありました。
わたしは予定が立てられずにチケットを買えなかったので、今回全く見られず残念ではありますが、それであってもその方針は応援したいと思いました。今回も体験を重視し、ベストな状態を見てもらうために時間を限定しているそうです。鑑賞者も、主催者の覚悟を汲み取り、そのうち見れるだろうではなく、絶対見に行く! とアンテナを鋭く立てる必要があると反省しました。

みんなに好かれるように、楽しさやわかりやすさを提供するのではなく、アートも、地域も、もっとぶつかりながら、混ざり合ってほしい。
見たいのは、どこでも同じものじゃもうなくて、もっと本気の切実なものではないですか?

〇〇アート、という言葉が氾濫する中、いまはアートが何か、ひいてはそもそもすべての判断基準が揺らいでいる時代です。ひとつの正解などない。だから自分が信じるアートを追求していくしかないのだと思います。

わたしは、鑑賞者として、にんげんとアートのことを本気で考え、覚悟のある表現者たちについていきたい、と思うのです。






by parttimeart | 2015-09-27 04:55 | コラム

アート専門家ではないふつうの人(会社員、福岡在住)が愛と情熱だけでアート、カルチャー情報を発信するメディアです。facebookではブログにはない情報をリアルタイムで更新中☆http://www.facebook.com/parttimrart
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